涙流さないで






彼が深い眠りに就いてから、数日が経った日の事だった。


彼のご両親から、郵便が届いていた。



封筒の封を切り、中に入っていた便箋を読んだ私は、すぐに涙が止まらなくなった。








『沢山会いに来てくれてありがとう。
君の夢がもう一度叶う事を、祈っています。


…君に歌ってほしい歌があります。
僕なんかが書いた歌を、気に入ってもらえるかわからないけど、僕にはこれくらいしか、君に恩返しできないから。

これを君が読んでいるという事は、僕は、桜の華を見る事ができなかったんだね。
残念だけど、君と会えてよかった。

さよなら。』











封筒には、もう一枚 少し古くなった紙が入っていた。


「…この歌…」













次の日、私は、今時珍しいテープレコーダーで録音したテープを片手に、以前いた事務所を訪れた。


当然、最初は相手にされなかった。

でも、私は諦めなかった。


「聞くだけでいいんです!お願いします!」


以前の上司は、渋々カセットをプレーヤーに入れた。






「…綺麗な声だな。」


「…誰の歌なんだ? 書いてくれる人が、見つかったのか?」

「いいえ、この歌は…」


「…いや、いい。うちで歌ってくれるんだな?」


「はい、歌わせてください!」



「来週の頭から歌ってもらう。準備はしておけよ。」

「はい!」









満を持しての再デビュー!
さまざまなメディアからの注目を集め、私はある歌番組に出演する。

もう失敗は許されない。
 この歌には、私だけの心じゃない。 彼の心も、言葉も詰まっているから…。





…いよいよ本番。

…きっと、彼も見ている。
そんな気がした。

…大丈夫、ちゃんと伝えるよ。
 君の、伝えられなかった言葉。




「…申し訳ありません、機器のトラブルで、演奏ができないので、少々お待ちいただけますでしょうか…」

生放送の舞台袖で、スタッフの一人がそう私に話した。


「…いいです、マイクだけあれば。」

「で、でも…」


「振りだけお願いします。ちゃんと、歌えますから。」


「…わかりました。」




静まり返った会場。
私がたった一人、舞台に上がった。




「本日再デビューとなります、持ち前の美声を武器に、アカペラで歌い上げる、本日初公開の新曲、『桜の華』」




私は一瞬目を閉じ、そして、深く息を吸い込んだ…。





「もう一度見たいな…

  桜並木に頬笑む君を

君は見たのかな

 今年もいつもの道に咲く桜の華を


もう一度見たいな

 君のその素敵な笑顔

涙流さないで

 悲しくなるから

いつもの君のように頬笑んで…



何度も甦る あの光景

 この目でもう見る事はないけど

君だけに伝えるよ この気持ち

 『もう一度だけ君と歩きたい…。』



『さよなら』を言う事もできなくて

 涙を流す事もできずに

ただただ毎日 夢を見る
 桜に頬笑む 君を


もし、もう一度だけ見られるなら

 そんなキセキが起きるなら

言葉にして 君に伝えるよ

 もう一度だけでいいから
  
   頬笑んで…





…もう一度見たいな

  桜並木に頬笑む君を

君は見たのかな

 今年もいつもの 路に咲く華を…」

















…私は、これからも歌い続ける。

彼の伝えられなかった言葉を、限りなく多くの人に伝えたいから。



そして


彼の生きられなかった刻を、大切に、生きていきたいと思うから…。





…もう、泣いたりしないよ。
 だって、いつだって私の心の中で、彼と、彼の歌が、私を支えていてくれるから…。 人気サイトランキングへ
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もう一度見たいな…






彼の病状は、日に日に悪化しているようだった。




昨日できた事ができない。


その恐怖に、私は耐えられるのだろうか。



彼はいつも笑顔だった。

しかしある日、彼は動かなくなった。



いや、正確には、動けないのだ。
 いつしか彼の体には、私には到底理解できないような仕組みの機械たちが、無数に繋げられていた。





それでも、私が面会に行くと、少しだけ嬉しそうな目をしてくれた。
毎日、毎日会いに行った。




私も理解していた。
その日が来る事を。



だけど、彼は 最後まで、大切にその刻を生きていた。











ある日、私はまた、彼の前で歌を歌った。


彼は私が歌い始めると、安心しきったかのように、心地よい子守歌を聞くかのように目を閉じた。










…私はずっと、この声は、神様が私に与えてくれたんだ って思ってた。

だけど、違ったんだね。

これは、彼の分まで、彼の生きたかった刻に、世界中の人々に言葉を、想いを伝えるために、彼がくれた声だったんだ。

…だから誓うよ。
私はもう、諦めない。

君が伝えたかった言葉、その全てを歌にして、皆に伝えたいから…。








3月1日

彼は静かに眠りに就いた。



「…さよなら。」

そう口にすると、涙がとめどなく溢れてきた。

…彼は生きているのだ、今も確かに、私のココロの中で…

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ココロ



いつしか季節は移り、彼に会いに行けないまま、数か月が過ぎていた。

アルバイトをしながら生活をしていても、オーディションの中継を見ていた人たちから、噂される。




もう私には、何も無いんだ。


そう思って、日々を過ごしていた。







私はふと思い立って、彼の病室へ足を運んだ。


もう紅葉が色付き始めていた。










病室に入ると、妙な感じがした。


彼はいつもと変わらず、私に頬笑んだが、何も話さなかった。





「ごめん、なかなか来れなくて。」



彼は枕元に置いてあるノートを開き、おもむろに文字を書き出した。








「…え?」




「…はなせない…の?」

以前より痩せた体

それでも、彼は笑っていた。



『うれしい』

「…ううん、ごめんね、来れなくて…」


『う た』

そう書かれた時、少しだけ辛くなった。

「…解雇されちゃった。 …才能、なかったんだよ。」



彼は首を振った。


そして、文字を指差した。




『うたって』



「え、でも、私が歌える歌なんて…」


彼は、花瓶の方に目をやった。



「…これ、私の…」

デビューシングルが、大事に置かれていた。
 ほんの少ししか売れなかったCDの一枚を持っていてくれた人がいて、少し嬉しかった。



「…じゃぁ、歌うね。」









私が歌うと、彼は嬉しそうに頬笑んだ。






「ごめん、久しぶりで、うまく歌えなかったかな。」


彼はまた首を振った。



『ココロ』



その一言の意味が、私には理解できた。

どんな歌でも、心を込めて歌わなければ、誰にも伝わらないのだ。



「…今のは、ちゃんと伝わった?」


彼は静かに頷いた。




「…そっか。よかった。」



もう一度だけ、チャンスがあったら。

私はそう思うようになっていた。





しかし、一度堕ちた私に曲を書いてくれる人も見つからず、季節は移り変わっていった。

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現実



夢が叶った。

そう思ったのも束の間、私は苦悩の日々を過ごしていた。


歌っても歌っても曲は売れず、次第に事務所も私を見放して行った。


こんなに歌が好きなのに、歌えることが嬉しいのに、仕事は減る一方だった。








「…私、もうダメなのかなぁ…」


彼の病室で愚痴を言ったのは、これが初めてだった。


「最近、調子悪いみたいだね…。」

「…夢って、叶えば必ずしもいいってわけじゃないのかもしれない…。」

「……。」


「夢が叶わない人だって、沢山いるんだよ。」

「…うん。」



そうかもしれない。
私は叶える事ができた。
だから、その人の分まで…


そう思った矢先の出来事だった。






「…解雇通知?」



突然の事だった。
しかし、当然の事なのかもしれない。
私には、歌しかないのだから。





「…もう、歌えないの…?」








希望をかき消された。

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夢のうた




私の進路は、高校に入る前から決めていた。
しかし、両親の強い要望を無視できずに、高校生活を送っていた。

とあるオーディション会場に私が足を運んだのは、卒業式から3週間が経った頃だった。




1次、2次の審査に合格し、後日行われる最終審査を待つだけとなった私は、彼にまた会いに行く事にした。





「やぁ、今日、見てたよ。」
彼はテレビを指差した。
大きなオーディションなので、時折中継に私も映っていたらしい。


「君が映っていて驚いたよ。」

「私も、あそこまで頑張れると思わなくて。」




「君の声なら、誰にも負けたりしないよ。」

彼はそう言って頬笑んだ。



「ありがと。 …今日はもう遅いし、また来るね!」


「うん、ありがとう。最終審査、頑張って。」

「ありがと、またね。」











最終審査は、全国で放送された。
彼も見ているだろうか、そう想いながら、歌い切った。


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桜のように…



彼が入院して3日が経ち、私はようやく、彼と面会する事を決めた。


「やぁ、来てくれたんだ。」



「うん、ごめんね、勝手に。」


「ううん、嬉しいよ。」






「あ、ここからも、少しだけ、桜が見えるんだね。」

「うん、無理言って、ここにしてもらったんだ。」



最後に会ったとき、彼はあまり肌を出さない格好をしていたのでわからなかったが、パジャマ姿を見ると、全身が痩せ細っているのがわかった。




「…体、よくなるの?」




彼は、外を見つめたまま、答えなかった。



「桜は、いつか散ると知っていても、日々を大切に生きているんだ。」


「僕も、桜のように生きたい。」






「…ごめん。」


「……。」



「昨日できた事が、今日できなくなっているんだ。」



「…え?」


「不思議だよね、昨日まで歩けたのに、歩けない。」



「そういう病気なんだって、去年の秋頃に聞かされたよ。」



彼はそう言って、外に目をやった。


彼にはきっともう、散ってしまう事がわかっているのだろう。

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約束の日



2週間が経ち、約束の日になった。

制服以外で彼と会うのは初めてで、少し緊張しながら 桜並木まで歩いた。






待ち合わせ場所に着くと、そこには車椅子に乗った彼の姿があった。



「…え? …それ、どうしたの…?」


「…ごめん、後で話すよ。」



桜の華はどれも満開で、時折吹く風に、花弁が美しく舞っていた。


「…明日から、入院するんだ。」

「…え?」




信じられなかった。

ほんの十数日前まで、同じ学校に通っていた彼が、入院。


「何で急に、元気だったのに…」


「…一つ、嘘をついてた。僕の家は、あっちじゃないんだ。」

「あの通りにある、病院に通ってた。こうなる事は、随分前から知ってたんだ。」




突然の事で、意味がわからなかった。




「今日は会ってくれてありがとう。最後に、いい思い出ができたよ。」


彼は名残惜しそうに桜の花を見つめ、桜並木の向こうに消えていった。


私はその場に茫然と立ち尽くし、ただただその理不尽な現実を見つめていた。 人気サイトランキングへ
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最後の放課後



蕾がチラホラと開きかけてきた頃、私たちは最後の下校をした。

長かった高校生活を終え、短かった二人の時間を話していた。




「…もう少し早く会えてたらよかったのに。」


不意に彼がそう言い出した。


「…そうだね、今日で終わりだもんね…。」


「…で、でもほら、会おうと思えば会えるわけだし。」


「…そうだね。」

彼は少しだけ頬笑んで、桜の木を見上げた。



「…そうだ、あの歌、聞かせてよ。」


「…え、そ、それがね、本当にあれだけしかできてないの。」

「そっか…」






「そうだ、ここの桜が満開になったら、一緒に見に来ようよ。約束だよ?」

「…うん、大体、2週間くらい後かな。」




彼と一緒に満開の桜を見れば、いい唄が浮かぶかもしれない。
そんな事を考えながら、私は眠りに就いた。 人気サイトランキングへ
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芽吹きの日


いつからか、私は彼と一緒に帰るようになっていた。

クラスではあまり目立たない存在だったが、帰り道では色々な話をした。



ある日の事だった。



「あ、やっと芽が出てきたんだ。」

私は思わず、桜の枝を指差した。

「ほんとだ。もうすぐ、春なんだね。」




「知ってる? 染め物に使う桜の色は、桜の木の皮から採るんだ。」



「え?花からじゃないの?」


「花の色を、桜は幹も、枝も、全部を使って、準備しているんだ。」

「散ってしまうと知っていても、一所懸命に。」



彼は一瞬、悲しそうな目で、桜の木を見上げた。


「じゃ、僕こっちだから、またね。」



「うん、またね。」


桜並木を抜けた先で、いつも別れた。
彼の哀しげな表情が、少し気になっていた。 人気サイトランキングへ
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はじまりのうた







「綺麗な声だね。」




最初にそう言ってくれたのは、お父さんだった。







寒空の下、私は まだ芽吹かない桜の木の枝を見上げ、唄っていた。







「…もう一度、見たいな…」




呟くような小さな声で唄っていた。



「…綺麗な声だね、それ、誰の歌なの?」



話し掛けてきた男は、見覚えのある顔だが、名前は思い出せなかった。

「私のだよ、オリジナル。 だけど、先が思い付かないの。作る才能はないみたい。」


「そっか、歌、好きなの?」


「…うん、私には、これしかないから。」





いつからか、そう思うようになっていた。


「そんな事言ったら、俺なんか何にもないよ。」


そう言いながら、彼も私と同じように、桜の枝を見つめた。


「まだ、芽吹かないねぇ。」




桜が好きなのだろうか。
私の歌は完成を見ないまま、心の奥底で眠りに就いた。
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